イベント会場に色を添えるコスプレだが、蒼乃には全く縁のない代物である。というか、そうだと思っていた。が、最近写真と社内報の整理をしていた私の目に突き付けられたのは、その思いこみを覆す衝撃的なものであった（笑）
そうなのである！　蒼乃はコスプレをしたことがあったのだ。しかもそうとは思わないで……

あれは１０年程前のことだったろうか。
当時私は企画部宣伝課という部署に籍を置いていた。文字通り、商品の宣伝を担当する部署だが、私の努めていた会社は開発・製造といういわゆる技術系の企業だったため、宣伝と言ってもその内容はカタログ制作や新聞社・雑誌社向けの宣伝原稿作成、展示会関係の
手配・準備が主だった。
今思えば、なんと印刷屋さんと仲良しこよしの部署だったのだ。そう思うと、奇妙な縁を感じる（笑）　そうそう、大きな展示場とも仲良しこよしであった。いやぁ、縁とは異なもの不思議なものである。
それはともかくとして、それ以外の仕事として、販売代理店向けの商品説明会というのが年に一度催されていた。と言っても我が社一社だけの催し物ではなく、提携会社である大手Ｍ電産との共同開催のため、提携しているとはいえ所詮中小企業である我が社は、なんとかして代理店の営業マンの印象に残るような説明をしなくては！！　と、異様に盛り上がっていた。
で、そんな中で説明会で説明役をすることになっていた係長がとんでもない案を出したのである。それは「問題解決○○○○マン」なる正義のヒーローを作りだそうという、ハッキリ言ってオタクチックな案であった。だが、それに乗っちゃう部長も凄い。さて、そこで問題になったのが正義のヒーローが倒すべき悪役キャラである。
どうも係長はヒーローの方のキャラクター案を既に思い描いていたらしく、しかもちゃっかりイラストにまで起こしてあった。ちなみに、係長は絵がすこぶるうまい（笑）
話を戻そう。我が社の「問題解決○○○○マン」が倒すべき悪役キャラ。ヒーローはあっさり決まったものの、悪役はなかなか決まらず、係長を始め、部員はみな頭を悩ませていた。が、そこで部長の鶴の一声である。
なにせ目立って尚かつ記憶に残ることが大切なのである。あまりにオリジナルキャラばかりでは、逆にその目論見が外れるのではないかと彼は言い出したのだ。そして……なんと、悪役は鬼ヶ島の鬼に決まった（爆）
そこで件の係長がまたも素っ頓狂な案を出す。つまり、悪役が鬼なら、鬼退治をする桃太郎が必要だというのだ。そして最終的に纏まったものが、技術的な説明は係長扮する「問題解決○○○○マン」が受け持ち、その前座（？）的な企業説明のようなものを、部署の女の子にやらせようというものである。しかも、桃太郎の扮装をさせて……（^^;;）
当時、女子社員は宣伝課には私ひとり、企画部全体では５人配置されていた。このうち、海外推進部の女子社員は除き、宣伝課と企画課の女子三人が桃太郎役を仰せつかることになり、私達は唖然とした。が、話の進みは早かった。
あれよあれよと言う間に「問題解決○○○○マン」の衣装が作りあげられた。（係長は洋裁も上手だった。ちなみに結構いい男。なんでもお菓子作りも上手いという話しである）
さて、桃太郎の衣装はというと……名古屋の人なら知らない人はいないだろう「何でも貸しますＫ産興」で借りることになった。しかし、さすが「何でも貸します」と謳っているだけのことはある。まさか私は桃太郎の衣装が見つかるとは思ってもみなかった。
そんなこんなでシナリオも完成し、リハーサルの為に私には東京出張が命じられる始末。
凄い気合いの入れようである。（当時、企画部は東京と名古屋にわかれており、部長は東京にいたのである）が、リハーサルは一回コッキリで終わり（爆）その夜、企画部の面々と一緒に私は五反田の飲み屋に繰り出した。なにやら、リハーサルというのはただの口実のような気がしたのは私だけだろうか（^^;;）
ともかく、リハーサルも無事終わり、いよいよ商品説明会当日を迎えたのだった。初日は大阪だった。朝から緊張の面持ちで私は新幹線で大阪に向かったが、我が社の説明の時間が近付き、会場の扉の前に立った時は、ホントに心臓が口から飛び出しそうだった。
が、一歩会場に踏み出して、私は思わず笑ってしまった。会場には思っていた以上の代理店の営業マンがいたが、それよりもなによりも、壁際に立っていた十数人は我が社の関西方面の営業マン達だった。拍手喝采を誘導するのも、頑張れと声を掛けてくれたのも彼等である。俗に桜とも言うが……（^^;;）　とにもかくにも、私は無事その説明会をクリヤーした。その後、場を移して代理店各社との懇親会があったが、私はすっかり「ああ、あの桃
太郎をやった人ね」と、有名人になっており、気付けば手の中は名刺の山であった。その後、名古屋の会場でもう一度桃太郎を披露し、私のコスプレ体験は終わりを告げた。
と同時に、これが蒼乃の最初で最後のコスプレにもなった。が、あの後、非現実的な目立ち方ってのも案外面白いかもと思ったのは事実である（大笑）

しかし、あの部署は面白すぎる。あんな素っ頓狂な説明会は見たことがないと、かなりの評判になったらしい。
無論、説明を受け持った「問題解決○○○○マン」と「桃太郎」は、暫く人気者だったとかなかったとか（笑）
毎年、説明会が行われる時期になると、「今年は何をやらかすの？」と聞かれるようになったというから、インパクトととしては最高だったのだろう。つまり大成功だった訳である。