「嫌だ」
　帰宅早々、ロイエンタールに『一緒に写真を撮ろう』と言うヘネラリーフェのお願いは、あっさり却下された。
「どうして〜〜〜？」
　が、今回ばかりはヘネラリーフェも簡単には引き下がらない。
「ねえ、どうして写真、駄目なの？」
「嫌いだから」
　嫌いだ……大嫌いな左右色違いの瞳、そして母に似たこの貌。自分を愛してくれなかった親から受け継いだものを目に見える形で残す気には到底ならない。
「とにかく、写真は駄目だ」
　愛しいヘネラリーフェの願いとは言っても、こればかりは聞き入れられないとばかりに、ロイエンタールは幾分厳しい声で突っぱねた。
「嫌〜〜　絶対にお願いをきいてくれなきゃ嫌！！」
　ロイエンタールがヘネラリーフェのお願いを退けられないのと同じで、ヘネラリーフェも彼の願いを退けたことはなかった。そう、これまでは。
　だが、今日ばかりはどうしても聞き入れられない。
「一緒に写った写真が欲しいの」
「どうして、そんなに写真に拘る？」
　深々と溜息を吐きながら問うロイエンタールに、ヘネラリーフェはこう言った。
「一緒に写った写真を持っていたいって思うのは変？」
　今は良い。今は一緒にいられるから。
「でも、私に出撃命令が出たら、離ればなれよ」
　もしもの時に、二人で一緒に写っている写真を持って行きたいと願うのは、そんなにいけないことなのか？
「ねえねえ、一緒に写真撮ろうよ」
　私は、貴方の外見だけを好きになったわけじゃない。その全てを愛している。
「だから、その姿を嫌わないで」
　そっと抱き締めてくるヘネラリーフェの肢体から、甘やかな香りがたちのぼる。
　ヘネラリーフェのお強請りには弱いロイエンタールだから、結局強硬に拒みきれないのを彼女は最初から計算に入れていたのだろうか……
　ともあれ、屋敷に写真屋が呼ばれた。

「では撮ります」
　ロイエンタールは布針のソファに深々と腰掛け、ヘネラリーフェは毛足の長い絨毯の敷かれた床の彼の足下に座り込んだ。
　写真屋がシャッターを切るその瞬間、ヘネラリーフェが座るロイエンタールの膝に頭をコテンと乗せ掛ける。
"カシャッ"
　どこにでもありそうな平凡な、だが幸せ溢れる二人の肖像は、こうして撮影された。
　写真屋が帰る際、ヘネラリーフェは台紙に貼り付けた写真以外に、スナップを三枚頼んだ。
　それを、後にロイエンタールが六枚に訂正したことを知るのは、本人と写真屋だけである。
　後年、その六枚の写真の中のヘネラリーフェが手にした三枚は、
・ハイネセンのビュコック家
・シャーテンブルク要塞のヘネラリーフェのフラット
・総旗艦シリウスの司令官室
　へ飾られ、
　そしてロイエンタールが内緒で追加した三枚は、
・私邸の書斎の机の上
・元帥府の机の上
・旗艦トリスタンの司令官室
　へと飾られることとなり、それを見る人を和ませたという。
　このことは、結局ロイエンタールはヘネラリーフェのお強請りには弱く、突っぱねきれないということを証明したような事でもあった。

キリ番『４４４４４』ゲットのみかんさんからのリクエストで『リーフェの我が儘に悪戦苦闘するロイエンタール』でした。
ただ、なんだか、あまり悪戦苦闘してないですよね（爆）
ロイエンタールが写真嫌いだというのは、急に思い立ったネタなのですが、でも彼って嫌いそうだと思いません？
それを知りながらも、あえてお強請りするリーフェ・・・十分我が儘に思えますが、皆様のご感想は如何に？（^^;;