| 帝国軍人はアフターファイブに一体にどのような会話をしているのか？ 気になりますねぇ。特に上層部の方々の会話は…… もしかして酒の席でも難しい戦略論を論じているのでは？ そんな疑問にお答えすべく、私ミュラーがこっそり提督達のアフターファイブをリポートします。（って、あんた当事者じゃない！？） さて、時は新帝国歴〇〇三年（宇宙歴八〇一年）。 帝国と同盟の間で繰り広げられていた一五〇年にも渡る戦闘にもようやく終止符が打たれ、両国には和親条約が締結されました。 というわけで、ここのところ平和を謳歌する空気は軍人専用のクラブにも強く見られるようになり、それは私達高級将校にとってもなんらかわることはありません。やはり平和は嬉しいものですから。 おっと、え〜コホン……ま、我々はいつまでも浮かれているわけにはいかないのですが。これから両国間で話し合うべきことも、そしてこの帝国の政治的な面でもやるべきこともてんこ盛りなのですから。 ま、それはおいといて、今夜は突撃レポートでしたね。（←ちょっと違うような） お、丁度ロイエンタール元帥とミッターマイヤー元帥が歓談中です。双璧と讃えられる名提督がどんな会話をなさっているのか知るチャンスですよ、これは！！（ミュラーメモ帳を手に、コソコソと双璧の背後の席に忍び寄る） 「卿はまた女をかえたそうだな」 どうやら内容はロイエンタール提督の女性関係のことのようですね。これはこれで、双璧にとってはそんなに珍しい会話でもないでしょう。なにせ、ロイエンタール提督の漁色は軍ではかなり有名で、皇帝陛下でさえミッターマイヤー提督にその手の会話を振ったことがあるという話しですし。 それにしてもミッターマイヤー提督も気苦労が絶えないご様子ですねぇ。どうせ何を言っても聞き入れて下さるような方ではないのですから、言うだけ無駄なような気もするのですが。おっと、これは余計なことでしたね。 と、そうこうするうちに双璧の席に何人かが合流し始めましたよ。 「ロイエンタール、聞いたぞ。また女をかえたんだってな。まったく羨ましいご身分だな。俺の方にも少し分けて欲しいくらいだ」 そう言って豪快に笑って見せたのは猪突猛進で名高いビッテンフェルト提督。 「貴方の所に行く物好きな女がいるなら、お目にかかってみたいものですね」 馬鹿丁寧な言葉で痛烈な皮肉を飛ばすのは、見た目秀麗で中身苛烈なファーレンハイト提督。 「そう言う卿は、恋人はいるのか？」 さすがのビッテンフェルト提督もファーレンハイト提督の言葉にムッとされたようです。 「私は家族を養うので精一杯ですから」 聞きようによっては、なにやら意味深に聞こえますね。案の定、ビッテンフェルト提督のみならずミッターマイヤー提督も色めき立ったご様子。 「家族だと？」 食うために軍人になったと豪語するファーレンハイト提督ですが、よくよく考えれば御自分ひとり食べていくくらいなら、何も危険な軍人稼業を職業に選ばなくてもいいようなものです。 「そうか……ご両親が健在か」 これまであまりプライベートな部分をお見せにならなかったファーレンハイト提督の意外な一面を垣間見たような気がします。どうやらミッターマイヤー提督もそのようで、少し砕けた 口調になりました。しかし、奥様がいらっしゃるとは思わなかったのでしょうか。 「いえ、両親は既に他界しています」 へ？ では家族と言うのは一体どなたなのでしょう？ 大穴で奥様がいらっしゃるのでしょうか？ 「では兄妹がいるのか？」 「ええ」 「俺には姉がいるが」 「生憎私は長男でして」 「では妹か？」 「ええ」 「羨ましいな、俺は一人っ子だからなぁ。できれば弟が欲しかったんだが（エヴァが引き取られた頃は可愛い妹ができたようなものだったから妹は必要ないし）」 「弟もいます」 「……………」 以上、ファーレンハイト提督とビッテンフェルト提督、そしてミッターマイヤー提督の会話。 ロイエンタール提督は、やはりというか当然というか、会話に加わるご様子はないようです。 「一体何人兄妹なのだ？」 恐る恐るという感じで聞いたのはミッターマイヤー提督。 「弟がひとり、妹が三人、そのうち末は双子です」 どっか〜〜〜ん！？ 衝撃的です。ファーレンハイト提督は五人兄妹だったのです。しかも、下に四人抱えていらっしゃったとは…… それでは軍人にでもならなければ食べてはいけないでしょうねぇ。 「そ、そうか。それは賑やかで良いことだな」 ミッターマイヤー提督、心ここにあらずといった気がしますが、でも無理もないでしょうね。 それにしても、ファーレンハイト提督のご両親も頑張ったものです（爆） 「ロイエンタール提督、よろしければ妹でもご紹介しましょうか？ なかなかの美人ですよ」 またまた、そういうことをよくもまあ平気で口にされるものです。もっと堅実な方ならともかく……おっと、これは失言でした。 しかし、これでは弄んでくれと言っているようなものではありませんか。実の兄の言葉とも思えません。もっとも、これもファーレンハイト提督流の皮肉なのでしょうか。 「生憎、俺は顔の造作には興味はない」 これには驚きました。だって、いつも見かけるその場限りの女性は、それこそ見目麗しい方々ばかりなのですよ。あれほどの女性（達）を傍におきながら容姿は問題外とは、いやはや益々ロイエンタール提督がわからなくなりそうです。 「ロイエンタール、この際聞いておくが、卿はどんな女性が好みなのだ？」 女性の好みがハッキリしているミッターマイヤー提督が少々嬉々とした表情でそう問い掛けましたが、あれはやはり好みの女性を捜し出して手っ取り早く身を固めさせようとでも思っているのかもしれません。 「俺か？ 俺は顔より躰だな」 「ほ〜〜 意外な好みだな。卿からそういう言葉を聞くとは思わなかった」 ビッテンフェルト提督、それは感心することじゃないでしょう…… 「何故、とお聞きしてもよろしいですか？」 ファーレンハイト提督、なんだか顔がにやけてますけど。ひょっとして答えの予測がついているのでしょうか？ 「容姿なぞ、灯りを消してしまえば気にならんからな」 「……………」 一瞬の沈黙の後、ミッターマイヤー提督が顔を赤らめているご様子。え〜〜と、今の言葉の意味は…… その、つまり…… 寝室での男女の営みのことをおっしゃっているのでしょうか…… た、確かに、それなら顔より躰というのもわかりますが。 あ！？ 私はそんなこと考えてもいませんからね！！ 誤解なさらないで下さい。 「くくく……なるほど」 ファーレンハイト提督、やはり返ってくる答えがわかっていらっしゃったんですね。お人の悪い。 「なあ、今のどういう意味だ？」 ビッテンフェルト提督、いい歳した男がわからないんですか？ それはそれで問題あると思いますよ！！ 「わからないなら、わからないで結構ですよ」 ファーレンハイト提督、どうやらビッテンフェルト提督には説明なさる気はないようです。まあ、説明するようなことでもないのでしょうが。 「ミュラー提督、貴方にはわかりますよね？ ロイエンタール提督の言葉の意味。まさかそこまでネンネではないでしょう？」 唐突に頭上から声が降ってきてビックリ仰天。 「は、はい！！」 思わず返事をしてしまってから固まってしまいました。 え〜〜〜！？ なんで私にこんな言葉がかけられるんですか？ 私は会話には加わっていないし、それどころか盗み聞きするために身を隠して…… 「そんなところに隠れてないで、出ていらしたらどうです？ その方が、もっとよく会話が聞こえますよ」 ファーレンハイト提督の意地悪。まさか気付いていらしたんですか？ 「丸見えなんですよ」 そろそろとソファーの影から顔を出してみると、ロイエンタール提督と真正面から視線があってしまいました。その金銀妖瞳にどこか苦笑めいた、でも見ようによっては嘲笑とも取れる笑みが浮かび上がっています。 「卿は防御は鉄壁だが、隠密行動には向いていないようだな」 ということは、ロイエンタール提督も気付いていらした？？？ 「な、なんだ、ミュラー！？ そんなところにいたのか？」 ビッテンフェルト提督は全然気付いてなかったようですね。らしいというか…… いつもならこういうとき笑いながらフォローに入ってくれるミッターマイヤー提督は、今夜は何やら難しい表情で考え込んでいらっしゃいます。ひょっとして、怒っていらっしゃるのでしょうか？ 済みません…… 少々度が過ぎたかもしれません。ミュラー反省してます。しかし、なかなか楽しいお話を聞かせていただきました。みなさん普通の、いえ普通どころか案外馬鹿馬鹿しい会話をされているのですね。なんだか安心しました。（←オヒ） というわけで、今夜のリポートはいかがだったでしょうか？ そうそう、後日この日のことを謝りにファーレンハイト提督の執務室に伺い、ついでにあの日のミッターマイヤー提督のご様子についてお尋ねしたところ、こんな返事が返ってきました。 「ああ、あれは卿に怒っていたのはなく、恐らくロイエンタール提督の言葉に原因があるのだと思いますよ」 容姿より躰…… つまり、漁色をやめるつもりは毛頭ないとでも言いたげなあの言葉に、ミッターマイヤー提督は思い悩んでいたのではないかというのです。 あくまでも自分の予想であって、それが確かなことかどうかはわからぬとおっしゃっていましたが、やはりファーレンハイト提督は私などより余程人間の心理を理解しておられるのだと感心しました。 それにしてもどうしてミッターマイヤー提督は、如何に親友とは言えあそこまでロイエンタール提督のことを気にかけるのでしょう？ 気になって仕方ありません。 しかし、これは恐らく誰にも立ち入れない双璧だけの問題なのでしょう。その強い絆が、少々羨ましくもあります。 Fin ＊かいせつ＊ キリ番１３１３番前後賞ゲットされたせいちゃんへのプレゼント作品でございます。 2001/3/28 かくてる♪てぃすと 蒼乃拝 |