その年の秋の来訪は早かった。
例年より強く薫る金木犀の薫りが強い中、ロイエンタールの誕生日が近付く。
そんな季節、ヘネラリーフェは今年の彼へのプレゼントを何にするか悩みながらブラブラと散歩をしていた。
散歩道の両脇には色付いた銀杏並木。
が、ふと見上げると、その更に奥に、紅葉の梢を見付けた。
周囲に人はいない。
ヘネラリーフェはそっと、そちらに向かった。
「わあ!?」
そこは、隠れ家を思わせるような場所であった。
直径約1メートルの円形の場所に、秋の色に染まった楓、紅葉、銀杏の梢がそおよそよと風に吹かれている。更に小さなベンチもあった。
「決めた!!」
ヘネラリーフェはそう呟くと、今来た道を引き返し、街へと出て行った。
そこでロイエンタールへのプレゼントを買おうと思い立ったからだ。
ヘネラルーフェは、一軒のブティックでプレゼントを買うと、足取り軽く帰路についたのだった。
誕生日当日……
その日、ロイエンタールは仕事を早めに終わらせ、日の落ちる前に帰路についた。
車で銀杏並木を通り掛かると、前方にヘネラリーフェの姿を認め、運転手に言い付けて車を止めさせて降り、そのまま車を帰させる。
「リーフェ、どうかしたのか?」
「うん、ちょっと……」
言いながら、ヘネラリーフェがロイエンタールの腕に自らのそれを絡ませる。そしてゆっくりと一緒に歩き始めた。
「あのね、素敵な場所を見付けたの」
ヘネラリーフェの足は、ゆっくりながらも確実に先日のあの場所へ向かっている。
「あのね、良いところを見付けたの」
そう言いながら、銀杏並木から脇へそれると、あの場所が現れた。
狭い場所に、紅葉と楓と銀杏の木々が、色付いてそびえ立っている。
そして、地面もまた、秋色に染められた絨毯のようであった。
「ほう、これは……」
感嘆の声をあげるロイエンタールに、
「ね、素敵な所でしょ」
と、ヘネラリーフェは少し得意気だ。
「ね、こっちこっち」
と、呼ぶまでもないが、ヘネラリーフェはロイエンタールをベンチへと誘った。
「ここから上を見てみて」
素敵よ……
ヘネラリーフェに言われてロイエンタールが上方をみると、色鮮やかな梢がそよそよと風に吹かれ、時折ヒラヒラと色付いた葉が落ちてくる。
ロイエンタールは、暫くすると、秋の香りを一層感じ取ろうとするように目を閉じた。
風に金木犀の薫りが微かに感じられる。
そのうち、ロイエンタールの端麗な口元から、スヤスヤという寝息が漏れだした。
「疲れているのね」
ここの所、彼は忙しくて、帰宅はいつも午前様だ。その為、今日は早く帰宅できたのだが、疲れが溜まっているのだろう。
ヘネラリーフェは、暫くそのまま彼の寝顔を見守っていたが、ふと思い付いたように、ベンチの下に手を伸ばした。
そっと取り出したのは、この場所を見付けた時にブティックで買い求めた彼へのプレゼントである。
そろそろ空が茜色に染まる時刻……外は結構冷える。
ヘネラリーフェはそっとプレゼントの包みを開けると、カシミヤの暖かく柔らかな肌触りのブラックのコートを取り出し、眠るロイエンタールの身体にそっと着せ掛けてやった。
どれくらいそうしていたことだろう。
空はそろそろ茜色から紫色へと変化しようとしている。
このままではロイエンタールに風邪を引かせてしまうと思ったヘネラリーフェは彼を起こそっと彼の肩に手を伸ばした所で、ロイエンタールが金銀妖瞳を開いた。
「あ、びっくりした〜 でも、よく眠れた?」
「ああ、なんだか暖かかった」
そう言いながら自らの身体を見て、ロイエンタールは『あっ』をいう顔をした。
「これの所為だったのか」
コートに触れながら呟く。
「今年は秋が早かったから、それにしたの」
ロイエンタールの着用する服は黒が多いので、たまには違う色の物をとも思ったのだが、結局黒のコートにしたのは、やはり彼には黒が一番似合うからだ。
「なんだか黒ばかりになっちゃったけど、でもとっても暖かくて柔らかで気に入っちゃったから」
そう言い訳がましく言うヘネラリーフェの可憐に色付く口唇に、ロイエンタールは思わずキスした。
「そう言い訳がましく言うな」
お前からのプレゼントなら何よりも嬉しいし、
「それに、そろそろ新しい物が欲しかったところだ」
そう言うとロイエンタールは、コートに溜まった落ち葉を払い、立ち上がりながら、コートを羽織った。
さすがにロイエンタールの好みや体格のことには詳しいヘネラリーフェが選んだ物らしく、コートは彼に似合う。サイズも当然ピッタリだ。
「良かった、喜んでもらえて」
「コートも嬉しいが、この場所に連れてきてくれたのも嬉しいぞ」
こんな密かな密会場所のような場所で二人きりで秋を満喫できたことが、コート以上に嬉しいと、ロイエンタールは言った。
「私もまさかこんな所があるとは思わなかったわ」
それもベンチまである。
「案外、誰か別の人の隠れ家なのかもしれないわね」
「そうだな」
言いながら、ロイエンタールは、ヘネラリーフェを膝の上に抱き上げ琥珀の柔らかく流れる琥珀色の髪を撫でた。
「最高の誕生日をありがとう」
そうして、二人は互いの口唇を貪るように合わせ、しばし甘い余韻に浸ったのであった。
もう何も言うことはありません。
つたない文章ですが、
ロイエンタール、お誕生日おめでとう!!!
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