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「わぁ、綺麗なコスモス」
　ロイエンタールと散歩中、ヘネラリーフェは可憐な花を見て歓声をあげる。
　そこは一本二本と少し咲いているのではなく、結構な群生地で、見る者の目を楽しませてくれる花畑であった。
　二人で可憐な花の姿を楽しんだ後、不意にヘネラリーフェが言い出した。
「そう言えば、あの花の種はどうしたんだろう？」
「あの花の種？」
「うん」
　ヘネラリーフェの説明によると、幼稚園を卒園する少し前に花の種を付けた風船を飛ばすという行事をやったのだが、その花の種を風船が引っかかった家の少年にあげたと言うのだ。
　ロイエンタールの心臓が大きく波打つ。
「あれ、園長先生が言うにはコスモスの種だった筈なのよね」
　あの花の種、ちゃんと蒔いてもらえたのかしら……
「もし、ちゃんと蒔いてくれていたら、今頃咲いているわね」
（ちゃんと咲いているだろう）
　心中でロイエンタールは呟いた。
　あの出逢いの後、彼はあの秘密の花園にコスモスの種を蒔いたのだ。
　いや、最初はコスモスの種をわかっていたわけではない。蒔いて、秋になって咲いてみたらコスモスだったのだ。
　だが、このコスモスとの出逢いがロイエンタールを宇宙へと誘うとは、人の縁とは不思議なものである。
「今思えば、ロイエンタールに似ていたなぁ、あのお兄ちゃん」
　仏頂面で言葉少なでも、どこか優しい……
（トクン）
　その言葉で、更にロイエンタールの胸の音が高まる。
「きっと、蒔いてくれたんじゃないか？」
　その張本人であるロイエンタールが嘘もここまでかと、観念しかねた様子で答えた。
「なんだか、知っているみたいな口振りね」
（ドキン）
　もう嘘も限界だろうに、未だに本当のことを言わないロイエンタール……初である（爆）
「そう言えば、あの時私と父との間だけの呼び名を教えたんだっけ」
「レニ……」
「え？　あれ？　そういえば、前にもこの話しをしたよね、その時も……」
　レニと、ロイエンタールに呼ばれた記憶がある。
「ロイエンタール、私のこと、昔から知っていたんじゃないの？」
（もう駄目だ、隠しておけない）
「小さなお客様が塀の隙間から敷地に入り込んできた」
　風船を追って。そして、その小さな手から種を託された。
「彼女は自分の名前をレニを言い、そして去っていった」
　以来、少年ロイエンタールの夢は宇宙になった。
「じゃあ、あのお兄ちゃんは本当にロイエンタールだったの！？」
　本当の本当の本当に？
　何度も確かめるヘネラリーフェにロイエンタールはバツの悪そうな表情で小さく頷いた。
「・・・・・」
　ヘネラリーフェの可憐な口元からは、暫く言葉が出てこなかった。
　やがて彼女は細い腕でロイエンタールにぎゅうっと抱きつく。
「運命の出逢いって本当にあるんだね」
　少し涙に濡れた声でヘネラリーフェが言った。
　その涙は亡きダグラスに捧げられたものだろうか。
「今度、オーディンへコスモスを見に行きたいね」
　涙声のまま顔も上げずにヘネラリーフェが呟く。
　ロイエンタールは、彼女の琥珀色の柔らかな髪を少し乱暴に掻き乱してやったのだった。

Fin

＊かいせつ＊

「さくら・さくら・」（以外でも）で既に過去に二人が出逢っていることがバレているので、前後が逆のお話になってしまいました。
そのあたりを了承して読んでいただけると有り難いです。
それにしても、ダグラスってちょっと可愛そうなキャラになってきちゃいましたね。今度は彼を持ち上げるお話でも書こうかしら。

2004/09/08　かくてる♪ていすと　蒼乃拝