フェザーンには、街を二分する川があり、橋も多く掛けられている。
その中でも特に美しいアーチ型をした石造りの橋があった。
左右には趣のある水銀灯のあるその橋は、『逢瀬橋』と呼ばれ、絶好のデートスポットで、ロイエンタールの私邸と元帥府のの丁度中間点にあった。
その日は朝から酷い嵐で、川の水位もどんどんと上がりつつあった。
いずれ橋も通行止めになるだろうと思っているうちに、案の定昼過ぎには橋は通行止めになり、嵐が弱まるまで川のあちら側とこちら側は、完全に遮断されてしまった。
元帥府にいるロイエンタールからもヴィジホンで橋の通行止めが解除されない限り帰れそうにないという連絡が入る。
そのヴィジホンを受けたヘネラリーフェは、ふっと寂しげな溜息を吐いた。
「今日は七夕なのになぁ」
これではまるで、織り姫と彦星と同じである。
窓外では嵐が益々酷くなるのを見て、ヘネラリーフェは憂うつな表情でベッドの上に寝ころんだ。
外からは遠雷の音がする。
縋る胸がない今、ヘネラリーフェの頼りは枕だけであった。
少しずつ雷が近付き、ものすごい音を立て始めると、悲鳴をあがながら必死で枕にしがみつく。
そんなことをしているうちに、嵐も少しずつ収まり、そしてヘネラリーフェは枕を抱えたまま、いつしか眠りに落ちていた。
気が付くと、さっきまでの嵐が嘘のように収まり、辺りは静けさを取り戻していた。
部屋の中は、いつしか茜色に染まりつつある、
窓を開けると、そこには木々についた水滴が夕日を浴びて美しく輝く景色が広がっていた。
「綺麗……」
思わず呟いた時、ヴィジホンが鳴りだした。
無論相手はロイエンタール。橋の通行止めも解除されたので、これから帰宅すると言う。
ヘネラリーフェは、ヴィジホンが切れた瞬間に、部屋から、そして屋敷から飛び出していた。
息を切らして辿り着いたのは『逢瀬橋』である。
そこで待つこと十数分、目的の車が前方から現れた。
橋のど真ん中に立っているヘネラリーフェを引くわけにもいかず当然車は止まる。
何事かと車から降りようとする運転手を制して、ロイエンタールが後部座席から現れた。
ヘネララリーフェが子猫がじゃれつくようにして、腕を広げて待つロイエンタールに抱きつく。
ぼんやりしていても、亡き同僚のことを思い出して気分が落ち込むので、お話を書いてみました。
短いですが、一応七夕を題材にしてあります。 でも、タイトルが「御宿かわせみ」のような時代劇みたいだなぁ(爆)
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