さくら・さくら
|
その年の春、皇宮では盛大な園遊会が催されていた。
万事華美を好まない皇帝ラインハルトではあるが、普段文官と武官の仲に距離があると感じており、これは決して政治的に良いことと思えず、この際交流の場として何かを開こうと思い立った結果、春のうららかな日差しの中での園遊会となったのである。 無論ロイエンタールとヘネラリーフェにも招待状が送られてきており、ロイエンタールは礼装姿で、ヘネラリーフェは黒地に薄紅色の桜を散らした模様の振り袖を着用して参加していた。 「とは言っても、軍人さんの方はともかく、文官さんの方は、仲良くなっても意味ないのよね、私の場合」 自分が外交官なら別だが、今のところヘネラリーフェの身分は同盟軍中将で、政治的なことには関わる義務も権利もない。 ひとりブツブツ言いながらそっと宴席から離れると、ヘネラリーフェは宴席からさほど遠からぬ場所に桜の木を見付けた。 「わぁ、綺麗♪」 数本の桜が、今が盛りと咲き誇っている。 木の下に立つと、はらはらと薄紅色の花弁が舞い落ちてきた。 舞い落ちる桜の花弁の中で両手を広げクルクル回りながら、『風さそふ 花よりもなほ我はまた 春の名残をいかにとかせん』と、口ずさみながら、長い袂を蝶のようにヒラヒラとさせて、一人舞う。 その幻想めいた光景をロイエンタールが見ているとは思わずに…… 「あら？」 ふと青緑色の眼差しの端に留まったものに、ヘネラリーフェは呆然と立ちすくんだ。 どうみても桜である。だが、その花弁は緑色をしていた。 「なに？ この桜」 なんて、不思議なのだろう…… 「御衣黄桜と言うんだ、それは」 不意に後ろから掛けられた声に、ヘネラリーフェは飛び上がった。 「ロイエンタール！？」 「珍しい桜だろ」 ロイエンタールはヘネラリーフェを立て抱きに抱き上げると、緑色の花弁を付ける桜の木の下に立った。 「この桜は、開花につれてわずかではあるが、緑、黄、ピンクへと色を変えていく珍しい品種なんだそうだ」 「詳しいのね」 「又聞きだ」 その言葉に、二人は目を合わせて笑い出した。 「園遊会は退屈か？」 どうやら、宴席から姿を消したヘネラリーフェをロイエンタールが探しに来てくれたようだ。 「いや、退屈ってことはないんだけど、ちょっと居場所が違うかなって感じがしちゃって……」 つまり、居心地が悪いということである。 ヘネラリーフェを抱いたままロイエンタールが園遊会場の方へ歩き出す。 突然ヘネラリーフェがクスリと笑った。 「？」 「桜の季節になると、貴方によく抱かれるなと思って」 ヘネラリーフェは思い出していた。小さな頃、闇の中で咲き誇る満開の桜の下でロイエンタールに抱き上げられたこと。そして、それを思い出す切っ掛けになった昨年の夜桜見物を。 「なんだ、思い出したのか、咲耶姫」 「そりゃ、貴重な経験でしょ、貴方に抱いてもらうなんて」 ふふっと微笑むと、抱かれたまま頸を傾け、ヘネラリーフェはロイエンタールの端麗な口唇にそっと口付けた。 ヘネラリーフェにとっては、一世一代の勇気をもってしたそのキスは、園遊会出席者達を暫し呆然とさせたようである。 Fin ＊かいせつ＊ 桜ネタが書きたくて、無理矢理ひねり出したネタです。 2004/04/02 かくてる♪ていすと 蒼乃拝 |